■横溝正史『殺人鬼』・『首』・『悪魔の降誕祭』など
横溝正史の短篇中篇集『殺人鬼』、『首』、『悪魔の降誕祭』を読んだ。
『殺人鬼』(角川文庫、平成19年3月10日改版再版)は次の4篇を収録。
「殺人鬼」
「黒蘭姫」
「香水心中」
「百日紅の下にて」
『首』(角川文庫、平成25年3月25日改版24版)は次の4篇を収録。
「生ける死仮面」
「花園の悪魔」
「蠟美人」
「首」
『悪魔の降誕祭』(角川文庫、平成24年5月15日改版6版)は次の3篇を収録。
「悪魔の降誕祭」
「女怪」
「霧の山荘」
上記の作品にくわえて、『本陣殺人事件』(角川文庫、平成24年8月5日改版32版)に収録されている「黒猫亭事件」も読んだのだが。
一連の作品のなかに、金田一の事務所の変遷とか、金田一の住みかと風間俊六とつきあいとか、作家のY先生と金田一のつきあいとかが描かれていて、なかなか興味深かった。
僕としては、対話篇的な作品よりも、登場人物が実際にあちこち行動して、いろんなものを知覚するさまをじっくりと描き出す作品のほうが好きだな。
おおざっぱな言い方になるが、ページ数の少ない短い作品よりも、ページ数の多い長めの作品のほうが僕には面白かった。
とくに興味深かったのは「女怪」。
金田一と作家先生の気さくな関係がえがかれる。
金田一は作家先生のところを「先生」と呼び、作家先生は金田一のところを「耕さん」と呼ぶ。
稲垣版金田一の設定そのものじゃないか。
作家先生の仕事場にやってきた金田一の、「先生」の仕事の停滞ぶりをみてのセリフ回しとか。
「八つ墓村」から帰ってきた金田一がたくさん金を持っているとか。
2人で「伊豆」に出かけていくとか。
稲垣版「女王蜂」だよ。
稲垣版のスタッフは単に奇抜に脚色したんじゃなくて、他の作品における金田一たちの行動をたくみに織り込んでいたんだな。
『殺人鬼』と『悪魔の降誕祭』には「中島河太郎」氏と「山前譲」氏のふたりによるふたつの解説が巻末についている。
これらの解説には各作品の初出誌、初出年月がしるされている。
解説の具体的な内容にはここでは触れないが、控えめにいっても、書誌的情報を含んでいるという点だけでもこれらの解説は学術的な価値をもっている。