新編 膝枕

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■横溝正史『犬神家の一族』(その3)~映画「犬神家の一族」(市川崑監督、2006年版)~

市川崑監督の映画「犬神家の一族」(2006年版)をDVDで視聴した。


 出演:石坂浩二、ほか

 音楽:谷川賢作

  (テーマ曲:大野雄二)

 監督:市川崑

 公開:2006年

* * *

僕がここであらためて言うことではないが、本作は1976年の同名映画の同一の監督によるリメイクである。

1976年版をそっくりそのまま再現した箇所もあれば、あえて左右反転させている箇所もあり、自分で自作をパロディ化しているのかなと僕は感じた。

事件の起こったのが、1976年版では9月であったのに対して、2006年版では4月。

1976年版、2006年版ともに、湖の向こうの山に雪が残っている。

2006年版で事件発生の時期を4月に変更したのも、その点を考慮したのかな? という感じ。

軍隊に招集されて佐清のむかったのが、1976年版では松本の連隊、2006年版では長野の連隊。

1976年版のエンディングで金田一が那須駅から列車に乗るが、その列車の行く先のアナウンスは「上野行き」。

松本の連隊に行くような地域の人なら中央線のほうが近いんじゃないかなぁ。だったら、「新宿行き」のほうが適切なんじゃないかなぁ、と1976年版をみて思ったのだが、2006年版で「長野の連隊」となったことから、そうした矛盾は解消されたねぇと思って視聴を続けていたら、2006年版はエンディングが大きく変わって、金田一は那須駅に行かなかった。

まぁ、いいか。

2006年版において那須駅で松子が若林に煙草を渡すのを松子の母親のお園が目撃するシーン。

駅のホームの柱のプレートには、「上田 篠ノ井 方面」としるされてる("01:47:27")。

(僕の視聴環境ではかなり文字がぼやけているが、文字の復刻はこれであっていると思う)

エンディングのクレジットによれば、上田も撮影に協力している。それで長野の連隊に変更したのかなぁ。

(大町も撮影に協力しているが、大町の立場はどうなる?)

同じ駅の別のカットでは、那須駅の隣は「しもすわ」とな("01:47:17")。

なんか無理がある。

たしかに原作を読んだとき僕がイメージしたのは諏訪湖であったけれど。

架空の場所なんだから、それでもいいけど。

* * *

さて。

1976年版で「怨念」だったところを2006年版で「想念」に置き換えた箇所がある。

(別の箇所では「怨念」のまま維持されていたりする。)

いずれにしても、1976年版と2006年版ともに、原作の核心にそのものずばりで踏み込んで映像化することに成功していないという感想をぬぐい去ることができない。

原作がみごとすぎる。

その原作にたいして映画はたぶん尺がみじかすぎる。

僕は1976年版を3回。2006年版を2回視聴した。

その順番はつぎのとおり。

  1976年版

  1976年版

  2006年版

  1976年版

  2006年版

短い期間に視聴を何度も繰りかえしたわけだが、あきることがなかった。

だから、けっしてつまらなかったわけではない。

でも、横溝正史によって構想された《犬神家の一族》という物語は原作で丁寧に味わうのがベストだ、と僕は思った。