■横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く』
横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く』を読んだ。
横溝作品は世相をよく描き得ているという評がある。
横溝作品をいくつも読んできて、世相の描きだしという点でとくに良くできていると感じたのが本作である。
そして、金田一の優しさが恐ろしいまでに際立っているのも本作である。
そのとき急に金田一耕助が走ってきて、うしろから美禰子の肩に手をおいて「三島君!」
と、何か注意をするように鋭い声をかけた。
東太郎と耕助はきびしい眼をして、しばらく睨みあっていた。等々力警部は顔をそむける。
「先生、許してください」
しばらくして、東太郎が弱々しい声でつぶやいた。(角川文庫、p.440)
謎解きの際、応接室に美禰子がはいることを制止しようとした金田一。
犯人たる東太郎も、その謎解きのもたらす悲劇と金田一の配慮を理解している。
すさまじい人間模様だ。