■横溝正史『犬神家の一族』(その1)
先日『八つ墓村』を読んで、その恋愛小説ぶりにぶったまげた。
そして、今回『犬神家の一族』を読んで、これまたぶったまげた。
なんという傑作か。
テレビドラマ「リーガル・ハイ」のある一話が『犬神家の一族』をパロディ化したものになっているらしいことは知っている。
僕は「リーガル・ハイ」をみて、『犬神家の一族』についての漠然としたイメージをいだいた。
そんな漠然としたイメージが、まったく予想だにしなかったスケールでくつがえされた。
情愛と嫉妬と呵責と憎悪と恐怖と猜疑と後悔と自責と報恩と裏切りと激情と思いやりと・・・
およそ人間のいだくありとあらゆる感情がひしめきあっている。
そして、大団円。
愛し合う二人とそれをみまもる母親のあたたかいまなざしにくわえて、犬神家の三種の家宝を用意しておいた金田一の優しさ。
すさまじい人間性がうずまいている。
そんななかでの次の結末が悲しさをひきたてる。
だが、その医者が駆けつけてきたときには、一世を震撼させたこの希代の女怪、希代の殺人鬼、犬神松子はすでに息をひきとっていたのである。くちびるのはしにちょっぴり赤いものをにじませて。……那須湖畔に雪も凍るような、寒い、底冷えのする黄昏のことである。(角川文庫、pp.413-414)
ちょっぴりの赤さ。そして、雪に白く、黒くなっているなかでの黄昏・・・
この色彩の対比と温度感・・・
すばらしい。