■「JR東日本 エキナカCM(大船駅編)」について語ってみる。
先日、僕は映画「夜のピクニック」のDVDをみて、「「夜のピクニック」をみた。」と題する記事を掲載した(2009年12月05日)。
その記事のなかで僕は多部未華子出演のJR東日本のCMにふれた。
その後、問題のCMを大きくてきれいな画面で、かつ、大きな音で視聴しなおした。
その結果、先の記事に訂正が必要であることに気がついた。
そこで、先の記事に対する、訂正を含む「追記」として、新たに記事を掲載することにした。
お題は、「「JR東日本 エキナカCM(大船駅編)」について語ってみる。」
まず、問題のCMを台本風に再現してみよう。
主要登場人物は二人。
(以下、俳優の名前で記述をすすめる)
このCMは「《今》シーン」と「《回想》シーン」のふたつからなる。
「カット1、2…」としたのは、カメラ位置が切り替わっていることを意味する。
シーン1 《今》 大船駅
カット1:ショルダーバックを右肩に、階段を上る多部未華子。(カメラはそれを上の方から見下ろす)
カット2:とある店の脇を歩く多部未華子。カメラはその多部未華子を店のガラスを間においてこちら側からとらえている。店の中を見て何かに気づき、たちどまる多部未華子。
カット3:店のなか(ファストフード店のようだ)の様子を、カメラは店のガラスを間において、多部未華子の視点からとらえる。岡田将生がまさにテーブル席に座ろうとしている。手にはまるめた雑誌とトレー。
カット4:カメラは多部未華子の顔を右側からアップでとらえる。
正面をむき直し、息をのむ多部未華子。
シーン2 《回想・1》 学校 桜の季節の下校時
カット1:生徒登下校口。
何人もの生徒が帰っていく。カメラはそれを斜め上からとらえる。
岡田将生が野球のユニホームを着た二人の生徒の方を向き、手を挙げ、「じゃあね」。
カット2:教室の窓際。
双眼鏡をのぞき込む多部未華子。
双眼鏡を目からはなし、「恋です」とつぶやく。
花びらがまい、穏やかな風が多部未華子の髪をゆらす。
シーン3 《回想・2》 野球場
カット1:マウンド。カメラはピッチャーの真っ正面。岡田将生はまさに腕を振り下ろすところ。
カット2:スタンドを斜め下から。チアガール姿の多部未華子たちが応援をしている。みな、ぽんぽんを持った両手をあげて、歓声を上げている。
カット3:チアガール姿の多部未華子(たち)が、ぽんぽんを投げあげ、走ってくる。(背景からすると学校のようだ。校舎の建物と建物をむすぶ野外廊下のようなところ。このシチュエーションの意味が今の僕には理解できない)
シーン4 《回想・3》 自動ドア脇。ドアの向こうは明るいショッピングセンターふう
(大船駅か? 行楽的荷物を持った人たちが多数。)
カット1:フレームの左側、自動ドア脇に多部未華子と友達二人。三人とも浴衣姿。多部未華子は頭にお面をつけている。そこに岡田将生が奥からカメラの方に向かってやってくる。岡田将生は多部未華子たちの方をちらっと見たようにも見える。
カット2:カメラは多部未華子たち三人を正面からとらえる。岡田将生はカメラの前を横切っていく。
(目の前を通り過ぎる岡田将生を目で追う多部未華子の表情が絶品!!)
シーン5 《回想・4》 神社、狛犬の脇
カット1:「当たって砕けろ」とコミカルな動きの多部未華子
シーン6 《回想・5》 大船駅の駅のホーム 季節は冬(多部・岡田ともにマフラーをしている)
カット1:自動販売機の脇に隠れている多部未華子。
多部未華子、岡田将生の方をむきつつ、「えっ」といって、自動販売機のかげから一歩前に出る。
手前の岡田将生は多部未華子の方を向いている。岡田将生の手にはリボンで結ばれた赤いものが見える。
カット2:(カメラはさっきと反対向き)岡田将生、多部未華子に向かって「義理だよね」。手にある赤いものはハート型。岡田将生の表情はとてもにこやか。
シーン7 《回想・6》 高架橋
カット1:涙ぐむ多部未華子。マフラーにあごをしずめる。背景をちょうど電車が向こうへと走っていく(電車の音付き)。
シーン8 《今》 大船駅
カット1:自動改札に近づきつつある多部未華子。立ち止まる。
(多部未華子のナレーション:「きっかけはいつもの駅にありました」)
カット2:後ろを振り返る多部未華子。
カット3:ファストフード店内。小さなテーブルで、下を向いて本を読んでいる岡田将生。多部未華子が左側からフレームの中に入ってくる。それにあわせて少し動いたカメラが静止する。多部未華子の立ち位置はファストフード店の入り口。人の気配に気づき顔を上げる岡田将生。
(男性ナレーション:「エキナカ、ゾクゾク。たとえば大船駅」)
カット4:多部未華子「久しぶり」。
ここにCMの構成を書き起こしながら、あらためて思ったのは、
このCMは名作だ。
そして、
多部未華子は最高だ。
ということ。
(一カ所理解できない箇所はあるし、教室の窓から双眼鏡をのぞき込むというのは不自然だが、それはまぁよい)
で、前回の記事の訂正を要するというのは、こんなことである。
多部未華子が岡田将生に再会するシーンで「久しぶり」という台詞がある。
ぼくは、二人がすでにそれなりに親しい仲であったと考えていた。それは、冬の駅のホームで岡田将生が多部未華子に親しげに何か話しかけていたからである。そのときの岡田将生の手にあるものがよく見えず、また、そのときの岡田将生の台詞も聞き取れなかった。ただ、そのときの岡田将生の表情がとても無邪気に明るかったので、《親しげ》とおもったわけだ。ゆえに、直後の高架橋での多部未華子の表情の意味も理解できなかった。
それが、よくよくみると、この駅のホームのシーンでは、岡田将生の手にあるのは《バレンタインのチョコ(しかもハート型! しかもしかも鮮やかな赤!!)》、自動販売機の向こう側に隠れてしまうウブな多部未華子に対して《義理だよね》の軽い反応。そして、その直後の高架橋における多部未華子の涙。
そして、最後のシーンのナレーション。
「きっかけはいつもの駅にありました。」
これをぼくは、「きっかけはいつも駅にありました」と聞き取っていた。
ここで重要なのは《いつも》と《いつもの》の違いだ。
浴衣姿の多部未華子が岡田将生の姿を見るのも駅だ(と解釈した)し、《親しげ》と僕が解釈した二人のやりとりも駅だし、「ひさしぶり」と多部未華子が声をかけるのも駅だ。「きっかけはいつも駅にありました」というナレーションはこうした事情をさしているのだと僕は考え、このナレーションのこのCM内での位置づけをそれなりに整合性をもつものと考えていた。
ともかく多部未華子の表情が絶品だ、ということだけで、ぼくはこのCMにひきつけられていた。
それがだ。音声と映像をよくよく知覚すると、そんな解釈に収まりきらないほどのストーリーの構成を持っていることに気づかざるをえなくなった。
野球の応援をしているのは、おそらく夏。甲子園予選の地方大会のような季節だ。
そして、夏祭りを思わせる浴衣姿での多部未華子が登場する。
当然夏だが、その時点では二人の間の関係に何の進展もない。
まぁ、岡田将生は多部未華子の顔と名前ぐらいは知っていたかもしれない。
でも、実際の告白はバレンタインの季節だ。
それまで片思いを続けてきた多部未華子に対して、軽く《義理だよね》と明るく無邪気に声をかける岡田将生。
で、(おそらくは高校卒業後)岡田将生の姿をエキナカに見つけた多部未華子が、彼に声をかけようかどうか逡巡しつつ、おもいきって声をかける…
この構成の妙、そして、それを表情と仕草で表現してしまう多部未華子。
(わずかにはさみこまれる、彼女のセリフまわしもいい)
すごい女優さんだ。
(岡田将生への言及がまったくないが、このCM内での彼の演技を僕はそれなりに高く評価している。が、多部未華子が良すぎる。だものだから、岡田将生にはふれない。ただ、このCMをあらためてみて、彼の名が岡田将生であることを知り、(なんか聞いたことがあるぞ)とおもったら、今年の集英社文庫の夏のフェアのイメージキャラクターであった。今僕の手元に当該フェアの小冊子がある。そこには山下リオもいる。)