■「秒速5センチメートル」をみた。
連作短編アニメーション「秒速5センチメートル ~a chain of short stories about their distance~」のDVDをみた。
原作・脚本・監督:新海誠
公開:2007年3月、63分
(各話のタイトル
主要登場人物名:声優名)
第一話 「桜花抄」
遠野貴樹(とおの たかき):水橋研二
篠原明里(しのはら あかり):近藤好美
第二話 「コスモナウト」
澄田花苗(すみだ かなえ):花村怜美
遠野貴樹(とおの たかき):水橋研二
第三話 「秒速5センチメートル」
遠野貴樹(とおの たかき):水橋研二
篠原明里(しのはら あかり):尾上綾華
主題歌:山崎まさよし「One more time, One more chance」
本作についてのオフィシャルなサイトはつぎ。
もっと早くにみておけばよかった。名作。
わたくしごとであるが、本作の主題歌「One more time, One more chance」は僕の好きな曲である。
僕はこの曲のシングルCDを所有している。ほかならず、この作品のワンシーンをおもてジャケットにもつ再発盤の方を。(2007年12月にHMV新宿南店で購入)
One more time, One more chance 「秒速5センチメートル」Special Edition
1. One more time, One more chance
2. 雪の駅 ~One more time, One more chance~ (from 『秒速5センチメートル』Soundtrack)
3. One more time, One more chance (弾き語りVer.)
このCDを店頭で目撃したときは、この名曲がCDで入手できることが単純にうれしくて、即購入した。
しかし、本作の制作スタッフには申し訳ないが、「秒速5センチメートル」という作品のことをそのときに知っていたわけではないし、それ以降もとくに本作に興味をいだくことはなかった。
ツタヤの店頭で本作のDVDのパッケージをみたことはあるし、たぶん人様のブログをつうじてのことだと思うが、本作についての高評価をしるした文章を読んだことがあるはずであり、漠然と(いい作品らしい)ということだけは知っていた。
つい先日、僕は twitterのタイムライン上で "「秒速5センチメートル」をみて「ヨーグルッペ」が目からあふれ出た" という趣旨のつぶやきを目撃し、本作がみたくなった。
(ちなみに、「ヨーグルッペ」というのは九州地区限定で販売されている飲み物のことらしい。いや、四国でも流通しているようだ)
で、さっそくレンタルしてきた。
初見したのは2010年11月20日(土)の深夜。(この記事を書き始めたのは、翌21日の11時23分)
それから何度も視聴し直した。
初見時の真っ先の感想。
(超個人的な嗜好にかかわることであるが。)
第一話「桜花抄」での「明里」の声がかわいらしいなぁ。いじらしくてさぁ。そりゃ、「貴樹」じゃなくても好きになっちゃうよ。
(内容についていえば。)
第一話における「貴樹」のナレーションに口頭ではもちいないような漢語が多すぎて、あの年齢の人間の《らしさ》の点で、違和感を感じた。
(ただ、なんども視聴し直しているうちに、違和感は減少していって、もうどうでもよくなった。)
総じて。
本作は名作。
連作をなす三話をつうじて、主題の点では一貫しつつも、また、両思い・片思いなどの違いをもちつつも、いくつかの恋模様がえがかれる。
(あえて無理矢理・強引にそれらをとりだせば。:第一話…貴樹と明里。第二話…花苗と貴樹、貴樹と幻想のなかでの明里。第三話…貴樹と水野さん、明里とその婚約者、貴樹と明里)
僕がどうしようもなく好きなのは、第二話「コスモナウト」の「澄田花苗(すみだ かなえ)」。
彼女はさ。中学二年の時に転校してきた「貴樹」のことがずっと好きだったんだけどさ。
なかなかそれを言い出せないわけだ。
言い出せないままに高校三年になって。
カブのミラーで髪をそろえて、弓道の朝練をしている貴樹に会いに行ったり。一緒に帰りたくて、建物のかげでまちぶせしたり。コンビニで一緒に飲み物を選んだり。草原で一緒に飲み物を飲んだり。・・・(彼女が、同じ学校で教員をしている姉の「車で送っていく」をことわるのも、貴樹に会いたいからなんだ。)
でも、(好き)って言い出せない。
(波に乗れたら告白を)と考えていて・・・半年ぶりに波に乗れて・・・いよいよ告白を・・・
でも、結局いえない。「貴樹」の心のむいている方向に気づいちゃったから。
(彼女は「ヨーグルッペ」じゃなくて、わざわざ貴樹と同じコーヒーをかったんだよ、その日は。)
僕は「奥手」とかなんとかっていう表現で彼女の性格とその行動をとらえたくはない。そんな一語でとらえられるほど単純ではないだろうから。
そのときそのときの彼女の発想の様式、心の動きがいじらしくてね。
僕は彼女のそんなところが好きだな。
彼女のステキなセリフの一部をここに引用しておく。
もしわたしに犬みたいなシッポがあったら、きっとうれしさを隠しきれずに、ぶんぶんとふってしまったと思う。ああ、わたしは犬じゃなくてよかったな~ なんてホッとしながら思って、そういうことに我ながらバカだなぁとあきれて、それでも、遠野くんとの帰り道はしあわせだった。("00:30:28"~)
つぎ。
「~て、~て、~て」のひたすらの繰り返し。
中2のその日のうちに好きになって、
彼と同じ高校に行きたくて、
ものすごく勉強をがんばって、
なんとか合格して、
それでもまだ遠野くんの姿を見るたびにもっと好きになっていってしまって、
それがこわくて、
毎日が苦しくて、
でも会えるたびにしあわせで、
自分でもどうしようもなかった。
("00:31:08"~)
↑このセリフ、映像とのシンクロ具合もみごと。
(略)きっと あしたも あさっても そのさきも やっぱり どうしようも なく 好きなんだと 思う。("00:47:47"~)
(彼女の思いがこみ上げるところでは、韻をふんでくる。)
超超個人的にいえば、ヨーグルッペを買うときの、レジでの「これください」("00:31:46")という彼女のしゃべり方が好きだ。
第二話で僕の好きな映像は、朝の草原にたつ花苗の頭上を雲が通過し、それによって生じた影が草原を通過していくところ。そして、そのあとに、花苗が半年ぶりに波に乗れるシーンが描かれる。音楽とマッチして、彼女の心のつかえが一気にとれていくこのシーン。じつにいい。
さて。
第一話で「貴樹」は雪でダイヤが大幅に乱れるなかを電車で「明里」との待ち合わせ場所に向かうのだが。
見知らぬ場所を走る夜の雪の電車。貴樹は不安でしかたがない。
本作はこの光景を淡々と描き出していく。
自覚しているかぎりでそもそも僕がこういう表現が好きだということもあるが、本作ではこのあたりの描写が実にうまくできているとおもった。
(貴樹)「(略)彼女からの文面はすべて覚えた。約束の今日まで2週間かけて 僕はアカリに渡すための手紙を書いた」("00:14:45"あたり)
(貴樹)「手紙から想像するアカリはなぜかいつも1人だった」("00:18:13"あたり)
僕はこういう「貴樹」が好きだ。
貴樹と明里はおたがい、相手に渡すための手紙を用意していたんだよなぁ。貴樹は手紙を風で飛ばされ、一方、明里は手紙を自分の鞄に入れたまま、貴樹を見送るんだけど。
貴樹に渡せなかったそのときの手紙が、第三話で、別の人との結婚が決まっている「明里」にそのときのことを思い出させるものとしてはたらくんだよなぁ。
「手紙を用意したのに、渡せなかった(渡さなかった)」という事実の描写が、素朴なんだけど、秀逸だよななぁ。
第一話 (明里)「秒速5センチなんだって」
第二話 (花苗)「時速5キロなんだって」
・・・というセリフの骨格の一致とか。
第一話で「貴樹」が栃木にむかうときの新宿駅での洗面台の映像と、第二話で「花苗」が告白を決めた日の学校の洗面台の映像とのアングルにおける一致とか。
第三話での、婚約者と待ち合わせをしているときに「明里」が1人で飲み物を飲んでいる状況と、バーのカウンターでひとりグラスを傾ける「貴樹」の状況との一致とか(このときの「明里」はやってきた婚約者と2人で歩き出すが、「貴樹」は1人のまま・・・)。
・・・とか。とか。
いいんだなぁ。
2007年12月の同じ日に、1995年3月のあの夜のことをお互いが思い出すとか。
2008年の桜の季節、手元に桜の花びらが落ちてきたのをきっかけに、同時にあの踏切をたずねるとか。
もっといえば、明里が式を挙げる時期と、貴樹が3年つきあった女性から別れを告げられる時期とがほとんど同時とか。
とか。とか。
すばらしすぎる構成。
細部の小物も。
図書館の利用カードの日付とか(それによって小学生のときの2人のつきあい方が表現される)とか。
コンビニで貴樹が手にする雑誌の記事とか(1999年に種子島から打ち上げられた衛星についての記事「long journey of ELISH from 1999 to 2008」)。
エレベーターのなかで「貴樹」がおとすキーホルダーについた鍵の数とか。。。
画像をキャプチャしてはりつければすぐわかることだが、まぁ、細かなところに配慮が行き届いていること。
そして、「コスモナウト」における
「件名 今朝の夢 異星の草原をいつもの少女と歩く。いつものように顔は見えない。空気にはどこか懐かし」("00:39:00")
という携帯画面の文章が、あの幻想的な草原の意味を説明してみせるとか。
丁寧につくりこまれた作品だなぁ。
なお、本作のDVDには特典映像として、監督へのインタビューが収録されている。
その構成はつぎのとおり。
・作品タイトルの由来(00:00)
・連作短編というスタイル(02:50)
・主題歌について(04:56)
・キャスティングについて(07:05)
・収録現場でのエピソード(14:15)
・今回の制作体制(16:21)
・ロケハンについて(19:03)
・制作中のエピソード(22:43)
・今回の作品で挑戦したこと(26:57)
・風景描写について(31:43)
・距離・時間・速度にまつわる想い出(33:40)
・作品を御覧になる皆さんへ(35:58)
ぼくは本作の構想と実際の構成に感服したと同時に、登場人物の声にもほれこんでしまったのだが、監督自身が、登場人物の性格をつたえるために声優にもとめたものについて、つぎのようにいっている。監督ってのは自分のイメージをうまく言葉にしてつたえるものだ。すげーと思った。
(以下は、監督のはなし言葉を書き起こしたものではなく、字幕をひきうつしたもの。ゆえに、じゅうぶんな引用ではない。)
第一話での「明里」の声に求めたものについて。
…何か10代の女の子特有の生々しいものが少し垣間見えるような気がして…
…その声には、僕の印象ですが、10代のはつらつさがあるし、あの年代特有の 根拠はないんだけど 自信に満ちている感じだったり、言葉で説明できないような不安を隠している感じだったりとか、あと まだ声が定まりきっていない、声の輪郭が揺れ動いている感じを話していてすごく感じたんですね。それが僕がアカリに求めている声だったので…(10:18)
第二話の花苗について。
…僕の印象では すごくはつらつとしているんだけど、どこか話している人との距離を慎重に測って話しているような、少し語尾が時折震えるような、そういうところがあるように感じたんです。そういう自然な所を出していただければ、カナエにぴったりじゃないかと思って…(12:06)
第三話での明里についても監督は語っているがそこは省略。
それと、《われわれの日常生活》についても監督はかたっていて、その見解は注目に値すると僕は思うのだが、この記事ではそこまで詳細に引用することはしない。
本作を視聴した僕は、新海誠監督の過去の作品が見たくて、つぎの二作品をレンタルしてきた。
◆「ほしのこえ ~The voices of a distant star~」
公開2002年
(このDVDには特典映像として「彼女と彼女の猫」フルバージョンが収録されている)
◆「雲のむこう、約束の場所 ~The place promised in our early days~」
公開2004年
この二作品のテーマについては、「秒速5センチメートル」の特典映像に収録された監督へのインタビューのなかで監督みずから語っているので、そのテーマの把握そのものは難しくはないのだが。
まえもっての知識なしに作品だけを見たとしたら、ぼくにはこの寓意がとらえられなかったであろう。
だから、独立した感想記事にしづらい。
ここでは視聴したという事実の記録にとどめておく。
最後に。
この記事のはじめのほうで言及したtweetというのはこれ↓。
2010年11月16日(火)
「秒速5センチメートル」を初めて観終わった直後、目からヨーグルッペが止め処なく溢れてきた。(11:06 PM Nov 16th via web)
http://twitter.com/Tamny_in_Africa/status/4535760518647808