新編 膝枕

智に働きたいと思いながら、なんかやってます。

■映画「バースデー・ウェディング」(その6)~33本のろうそく~

本稿(その6)で着目するのは、千晴の結婚式の末尾で紀美子の席におかれるバースデーケーキにたてられたろうそくの本数である。

【私は本稿を 《作品分析》 のつもりで執筆しておりますが、《ネタバレ》 と解釈することが可能な内容を含んでいるかもしれません。】


本稿の話題はろうそくの本数であるが、それが「33本」である、ということを、最初に明らかにしておこう。

本稿で考察の対象にするのは、なぜここで33本のろうそくがたてられているのか、ということである。


* * *



《第一日(I)》に紀美子32歳の誕生日を海岸で祝ったときの千晴(5歳)のセリフが、このろうそくの本数の意味を理解するための手がかりになる。

まず、その日の千晴(5歳)のセリフをここに再現してみよう。

つぎのお誕生日はもっとおーきなケーキをつくってあげるね。それでね。ママをもっと驚かせてあげる。それでね。たくさん、たーくさん、またビデオとるの。つぎの誕生日はね。もっとすごいプレゼントするね。今度はね、おおきいのにするね。(以下略)


《つぎの誕生日はもっとママを驚かせる》と約束した千晴。でも、紀美子につぎの誕生日は訪れなかった。なぜなら、紀美子はその前に死んでしまったから。

もちろん、千晴は紀美子の誕生日を忘れたわけではない。忘れていなかったからこそ、千晴は自らの結婚式を母親である紀美子の誕生日にあわせたのだ。

しかし、どのようなしかたでその誕生日を祝うのか、5歳の時に約束した《もっと驚かせる》ということを忘れていた。「忘れていた」という言い方は妥当ではないかもしれない。というのも、そのときの千晴は5歳だったのだから。でも、式の前日に《思い出の海岸》のビデオをみた千晴は、5歳の時に自分が母にした約束をはたすべきだと思ったのだろう。

さて、普通に紀美子の誕生日を祝うとしたら、あの日から16年経過したのであるから、紀美子の48歳の誕生日を祝うことになるだろう。したがって、ケーキには48本のろうそくをたてることになるだろう。

しかし、本作においてはそれが33本である。このことの意味はもうあきらかだと思う。《つぎの誕生日はもっとママを驚かせる》という約束であり、また、32歳の誕生日のあとにはじめて祝う紀美子の誕生日だからこそ、32歳のつぎの誕生日で33本なのだ。


さらに、本作の構成の妙に関わることとして、ここでは、上に引用した5歳の千晴のセリフ(「つぎのお誕生日はもっとおーきなケーキをつくってあげるね。それでね。ママをもっと驚かせてあげる。…」)の箇所がスクリーンに映し出されるのと、バースデーケーキが紀美子の席におかれるのとがタイミングの点で絶妙にリンクし、重なり合っていることにも注目しておきたい。


本稿(その6)のテーマである、ろうそくの本数の話題からはそれるが、類似の構成の妙を示す箇所が、もうひとつ、千晴のスピーチの中にあらわれている。そのシーンをここに書き起こしてみよう。

千晴 「実はゆうべ、はじめてこのビデオの存在を知りました。どうして父はいままでこのビデオのことをわたしに言わなかったのか。そのことを考えました。最初はわからなかった。わたしにさびしい思いをさせたくなかったから、みせられなかったんだよね、お父さん。だって、このなかには、生きているお母さんがいるから。」

 スクリーンには(千晴の方をとって)のジェスチャーをする紀美子がうつる。

千晴 「でもね、お父さん。わたしはこうしてまたお母さんに会えてうれしかった。もう二度と会うことができない、そう思ってたお母さんに会えたんだもん。いつもいつも、わたしとお母さんのこと、見つめてくれていたんだよね。ありがと、お父さん。」

(DVD本編“01:00:36”~“01:02:02”)

紀美子が(千晴の方をとって)のジェスチャーをする姿はアップで映し出されている(このビデオではこの紀美子を大写しにした箇所の前後にあるのは、5歳の千晴の姿が(そこに通りかかった年配夫婦と一匹の犬とともに)うつったシーンである)。このジェスチャーをする紀美子の姿をアップで写しだしたビデオ映像と、「このなかには、生きているお母さんがいるから。」という千晴のスピーチがぴったりと重なり合っている。

読者の皆様には、ぜひ本作を実際に鑑賞して、この構成の妙を確かめていただきたいと思う。

(この稿、つづく)